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最高裁判所第一小法廷 平成元年(行ツ)172号 判決

大阪市西区江戸堀一丁目一八番二七号

上告人

昭和貿易株式会社

右代表者代表取締役

末野明義

右訴訟代理人弁護士

藤田邦彦

同 弁理士

藤田時彦

福田進

大阪府豊中市庄内西町五丁目一七番六号

被上告人

田中功

右訴訟代理人弁理士

小原和夫

濱田俊明

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第二二六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年九月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤田邦彦、同藤田時彦、同福田進の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大内恒夫 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)

(平成元年(行ツ)第一七二号 上告人 昭和貿易株式会社)

上告代理人藤田邦彦、同藤田時彦、同福田進の上告理由

一 原判決はその理由二の取消事由(分割出願の適否)の判断において、実用新案法二条に係る明細書に記載した事項に関する技術なる法律観念の判断を誤り、それが原判決に著大な影響を及ばしたことは原判決の論旨上明瞭であるから、原判決には民事訴訟法第三九四条の規定に該当する審理不尽理由不備の違法が存する。

二 即ち、

1 原判決はその理由二の2において、『原出願の出願当初の明細書の「考案の詳細な説明」の欄には、「袋主体の上方両側に一定の開口部を対設しかつ上縁にもファスナーによって開閉自在の開口部を有する構成」の収納袋が開示されていることは明らかである。そして、右構成の収納袋は、「袋主体の上方両側にファスナーによって、開閉自在な開口部を対設し、各開口部に籾摺機の排出ダクトの先端を潜通せしめることにした構成」の収納袋が備える上方の開口部に近接して上縁にも開口部を有するのであるから、各開口部はいずれもファスナーを開放して排出ダクトの先端を潜通し得る構成のものと容易に理解でき、かつ、右のような構成を有する収納袋は、格別の説明を要することなく、実際の場においても、このような串差し状に吊り下げて使用されるであろうことが推測され得る』と認定している。 また『籾殻の排出口として予定されていた開口部が上縁に設けられた場合には、右に述べたように上方の開口部との位置の近接関係からみて排出ダクトの先端を潜通する機能をも有するものと認めることができるのであり、右記載にもかかわらず、当業者もそのように理解するのにさして困難なことであるとは認めがたい』と認定している。

2 しかしながら、右判断は原出願の出願当初の明細書に記載された技術的思想を拡大解釈したものであり、また、右のとおり「……推測され得る」の記載からも明らかなように推測で物事を判断したものというほかはない。

少なくとも出願当初の明細書に記載されているか否かの判断は、当業者が容易に実施できる程度に現に記載されているか、あるいはその記載がない場合であっても、その出願時において当業者が出願当初の明細書に記載されている技術内容からみて記載してあった程度に自明な事項だけに限られるべきである。

しかるに、「袋主体の側縁上部と上縁とに形成された2つの開口部を利用して排出ダクトに袋を斜め串差しする」技術思想は、原出願の出願当時の籾殻処理技術としては前例を見ない画期的なものであり、この技術が右出願時の出願当初の明細書に記載してあるとの判断は右明細書の記載を拡大解釈したものである。

3 たまたま明細書中に「上縁又は下縁」と対語的に只一箇所記載されたことを奇貨として一つの考案中に複数の考案・発明が包含されている等の認定は全くの暴論である。

明細書の説明中の他部分および図面中にも記載の無い考案発明等は存在しないものである。

現在、考案発明の完成時にその利益を受ける発明主義と出願主義を採る、国々とのハーモナイゼーションの論議のある中でかかるケースは厳格に対処されるべきである。

また、出願の滞貨が問題化している現状でかかる分割出願及び出願変更を安易に認める審理を執っていれば先願主義審査に混乱を生じ、審査遅延に拍車をかける結果となることは必定である。

4 ところで、明細書及び図面が第三者に公開する技術文献として、社会が亨有する性格を有している点を重視するならば、「発明の内容は正確かつ明瞭に」記載されるべきであり、厳格かつ慎重に判断すべきである。

また、明細書及び図面が特許権あるいは実用新案権として主張すべき技術的範囲を明らかにする権利者としての使命を有するものであることから見ても、出願当時前例を見ない画期的な技術は、少なくともその明細書に記載されていなければならない。

5 一方、我が国は工業所有権に関しては、先願主義を採用するが、その特例として分割出願等の制度を採用し、その出願日を原出願の出願日まで遡及させている。

しかるに、右のように拡大解釈してまで原出願の出願当初の明細書に記載されていると判断することは、むやみに分割出願を是認することになり、先願主義の原則を阻害しかねない。

したがって、原出願の出願当初の明細書に記載されているか否かの判断は明細書の記載から厳格に解釈されるべきである。

三 右に主張したことから明らかなように、原判決は原出願の明細書に記載した事項に関する技術観念の判断を誤り実用新案法第一条ないし二条に違背することは明らかである。。

そして、右判断が原判決に著大な影響を及ぼすことは必至である。

よって、原判決を破棄して、改めて上告審において適正に双方の主張を証拠、法令に促して審理すべきである。

以上

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